選択肢学

ゲームシナリオのドラマ作法』でほんの少しだけ触れられていることに「選択肢学」という考え方があります。マルチプレックス・ストーリーにおいて、選択肢によってどのようにストーリーが分岐・遷移していくかを分類・分析する学問、という感じでしょうか。

従来の一本道の物語においては、その中の主人公の行動に、作者が伝えたいテーマがこめられます。しかし、その主人公の行動が(一部とはいえ)ユーザの手にゆだねられるマルチストーリーのゲームにおいては、事は単純ではありません。マルチストーリーにおける作家性とは、選択肢による分岐構造全体の提示にこそある、と考えるべきでしょう。

上記の本において、川邊先生は「彼岸花」の長坂秀佳氏を特に取り上げて、その選択肢の設計における優れた作家性を評価しています。こうした形で、選択肢の作り方から作家性を評価するような風潮が高まれば、それに刺激されて、もっと魅力的なコンテンツが生まれてくるかもしれませんね。

先行研究もいくつかあるのかなぁ、とも思うのですが、なかなか聞いたことがないんですよね……。作家性云々はともかくとして、現状の選択肢構造の分析くらいの研究はあってもらえると、その構造を簡単に実現するためにスクリプト言語に必要な要素は何か、という方向に考えを持っていけるので、とても助かるんですが。

とりあえず、現状で川邊先生が書籍内で挙げている分類を以下に載せておきます。分類が表と本文で食い違っているため、適当に組みなおしています。川邊先生の頭の中の分類に忠実ではないことをご了承ください。

ツリー(樹枝)型 or ホーキ(箒)型
選択肢で分岐し、その後、合流せずにさらに選択肢で分かれていくような型。
迂回路型 or チョーチン(提灯)型
途中で分岐しても必ず本流に戻る迂回路集積型。
樹枝・迂回路複合型
道筋の数を絞り、その流れに沿って迂回路を設ける型。
飛躍移行 or アミダクジ型
複数の道筋を用意し、選択肢によってその道筋が切り替わることにより、偶然の計算外の効果を狙う型。『街』のザッピングシステムも含む?
組紐型
樹枝・迂回路複合型よりもっと筋が絡み合っており、複雑な条件で筋が切り替わるもの。『彼岸花』など。
綾織型
組紐型の横幅がずっと大きくなったもの。『弟切草』など。

ちなみに

上記の分類は、本文中と表ですでに使われ方が異なっていることからも分かるように、あまり厳密ではないようです。またこの区分だけで本質的な何かの分類が可能であるとは思っていません。選択肢構造について考え始めるきっかけ程度にしていただければ。