EC2006 招待講演 by ぜんじろうさん&パペじろう

羽生さんに続いて、吉本興業のぜんじろう氏による招待講演がありました。こちらも非常に面白い講演でした。ぜんじろうさんは NEC の PaPeRo を作っているチームと共同で、コミュニケーションロボット である PaPeRo と漫才を行うという試みを継続的にされており、ルミネtheよしもとなどで実際に公演しています。

まず、今回の予稿集に収められているぜんじろうさんの論文が、非常に興味深い。笑いの要因に関する過去の文献を読んで、エンターテイナーとしてのご自身の経験を踏まえた上で納得したものについて分類したもの。ということでサーベイというには主観が入っている気もしますし、網羅性という点では不安も残りますが、逆にそのフィルタが入っていることで論文としての価値が上がっている気がします。笑いの発生要因を研究される方はぜひ一読されることをお勧めしたい一本です。

また、講演も考えさせられるものでした。ぜんじろうさんの経験の上からの実感として、「客が笑うのは、(論文で書いたような)論理的に分析できる部分が20%、残りの80%は空気」だと感じているとのこと。同じ客層に同じネタをやったとしても、空気の状態によって、ウケの度合いがまったく違うそうです。しかし、空気という概念がとても難しいので、これから1年間の研究テーマにしたいということでした。

それを聞いて感じたことは、コンテンツで楽しくなってもらうためには、まず、適切に楽しさを感じる精神状態に受け手を導くことが非常に重要であり、その上でメインのコンテンツを持ってこなくてはならない、ということ。受容者の内的状態もしっかり考慮に入れることの重要性を改めて認識しました。もちろん、現在の各メディアでの方法論には、そういった観客の状態を誘導することも折り込んではいるはず(映画における導入の方法論など)なのですが、あまり明示的に意識はされていないような気がします。

他にも、受け手も鑑賞するための努力をする義務がある、という内容の話もありました。適切にコンテンツを楽しむには、そのために観客がしなくてはならないこともあるのだ、という主張です。ゲームにせよ、適切な楽しみ方に関する教育を何らかの形で(おそらく、教育とはわからない形で)行わねばならない、ということを頭の片隅で意識しておくと、何かの見え方が変わってきそうです。

そのほか、名人芸はロボット化するということである・「お客様は神様です」は観客が大事という話ではなく、神へ奉納する気持ちで演芸をしている、ということである、などなど、興味深い話が続き、大変満足いたしました。