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PS2「十次元立方体サイファー」Abel

ゲーム

十次元立方体サイファー ~ゲーム・オブ・サバイバル~ (初回限定版)

菅野ひろゆきさんの手によるアドベンチャゲーム「十次元立方体サイファー」のPS2版をプレイしました。PC版もクリアしているので、復習しながらボイスを楽しむ程度の気持ちで。もっとも、けっこう忘れていて、十分に楽しめてしまいましたが(苦笑)。

PC版の感想もメモしていなかった気がしますので、そこら辺も含めて軽く書いておきます。いつものことながら、ネタバレは気にせずに書いていますのでご了承下さいませ。

本作の特徴

サイファーはいくつか挑戦的なことを試みているタイトルです。おそらく、いろいろ溜まっていたアイデアを試してみた実験作としての色合いが強いのでしょう。

動的タイムリンクシステム

挑戦の一つが動的タイムリンクシステムと名付けられた、従来にはない形でのアドベンチャゲームへのリアルタイム性の導入です。これは簡潔に言えば、コマンド選択式のアドベンチャゲームに、リアルタイムの時間経過によるイベントの発生を加えたシステムです。

典型的には、ある場所に移動してぼーっとしているとある時突然人がやってきてイベントが始まる、といったものです。イベント中の選択肢などに時間制限を設けるものはサクラ大戦を始めとしていくつか例がありますし、RPGのようなフィールドをキャラが移動しているタイプのゲームであれば当然リアルタイム性があります。しかし、コマンド選択式のアドベンチャゲームにおいて、リアルタイムに時間をカウントしてイベントを発生させるというのは新しい試みだったのではないでしょうか。

大まかな流れとしては、自由行動開始時にゲーム内時間がセットされ、自由行動中はコマンドを選択したりメッセージを読んでいる間もゲーム内時間が現実時間と同じ早さで過ぎていきます。ちなみに、一定時間で次のイベントを発生させられないと、たいていは(半ば無理矢理に)バッドエンドで行動終了させる形になります。

活用事例としては、例えば部屋の前で一定時間待っていると部屋の中から人が出てきたり、マップ中を動き回る人を捕まえたり、時間が経つのをじっと待って人がいなくなるのを見計らってから移動したり、といった使い方がありました。しかし、逆に言うとこれくらいしか作中では有効に活用しているシーンがなかったようにも感じます。一定時間以内に正しい選択をしろ、のような使われ方もありましたが、それは従来例も十分にありますから新規性はないですよね。むしろ、リアルタイムでタイマーがカウントされることにより、徒にプレイヤーに対して常に時間に対するストレスを与え、落ち着いてテキストを読むことを阻害していたように感じました。

特に PS2 版ではシナリオ進行に関わるイベントではほぼフルボイスだったのですが、その音声を全て聞いていると、普通にプレイしていても時間切れに引っかかってしまうような調整だったんですよね。せっかくのボイスを収録したにもかかわらず、それを否定するかのようなデザインがされていることには疑問を持ちました。せめて、ボイスを入れるにあたって時間制限を調整してくれればよかったのですが、そこまで移植にコストをかけていられなかったのでしょうね。

ただ、試みとしては面白いものがありました。フィールド式と、コマンド選択移動式の中間を狙ったシステムはもっといろいろ挑戦できる余地がありそうですね。例えば、時間だけでなく空間のつながりも制約として入れてしまえば、他の人に見つからないように移動しながら特定の人と接触する、といった臨場感をより楽しめるかもしれません。完全なフィールド式にすれば、当然普通に実現できることですが、それはそれで普段の移動が面倒だったりしますので、いいところだけ折衷するというのは十分にアリでしょう。

2つのシナリオ

PS2版は1回クリアするともう一つのシナリオに行ける、というごく普通の感じになってしまいましたが、元のPC版はすごい挑戦が行われていました。なんと、PC版ではインストール時にシナリオが2つの候補からランダムに選択され、以降、セーブデータを初期化しないともう片方に行けない、という超仕様です。しかも、ゲーム内にCG一覧もないため、そういった副情報からもう一つのシナリオの存在を知ることもできません。ラスト付近まではほぼ同じシナリオとはいえ、結末が片方はミステリで片方はSFという隔たり方をしていますので、プレイした二人が感想を言い合うとかみ合わないこと必定です。

なお、2つのシナリオは中盤までのシナリオをほぼ共有しているというだけで内容は完全に独立しています。相互に補完し合うという性質のものではありませんので、片方だけで一つのタイトルとして完結しています。

しかし、商売的にこうすることの利点が全く思いつきません。推測でしかありませんが、可能性の一つとしてはその他大勢に埋もれないための話題作りだったのかもしれません。もしくは、こうした場合にどれだけネット上での初期の感想が混乱し、その後どのように情報共有が展開していくかを見てみたかった、という好奇心だったのではないかと考えています。確かに発売直後のネット上の状況がどうだったのかについては、純粋に興味はありますが……(^^;

プレイごとにランダムに変化する謎

ゲーム中、いくつかクイズのような謎解きがあるのですが、これがプレイごとにいくつかの候補の中からランダムに変更されます。この件に関しましては、いくつかのインタビューで、簡単に攻略情報が共有されるのを避けたかった、といった趣旨の発言がありましたので、そういう意図なのでしょう。Abel 作品では、そのものずばりの攻略情報をネット上に載せることをメーカー側が規制するということもしています。「謎を解く」という行為を大切に考えていることの現れなのでしょう。

プレイヤーの遊び方をそこまで規制する必要があるんだろうか、と思わないこともないんですが、近年のインターネットの発達によって、あまりにも情報の共有が簡単になっていますので、謎解きによるカタルシスを売りにするゲームにとっては攻略サイトへの対応は重大問題なのかもしれません。

シナリオ構造

メインシナリオが開始時に2種類に分岐する以外は、基本的にシナリオは一本道です。しかし、アイテムのシステムがあるため、アイテム入手のタイミングなどで多少のバリエーションが出ます。多くの場合、シナリオ進行アイテムはプレイヤーがアイテムメニューから自分の意志で使用する必要があります。

複数の移動可能場所があり、時間の経過と共に各場所で発生するイベントが変化する、というイベント発生形式です。動的タイムリンクシステムの実現のために、多少イベントに入る部分のスクリプトのバリエーションが増えることになりますが、基本的にはコマンド選択の分岐にタイマーによるイベント発生という項目が増えるだけでシステム的な対応が可能な範囲です。アスペクト志向的な切り方でのイベントスクリプトの挿入がサポートされていると書きやすそうではあります。

その他感心したこと

臨床試験という舞台設定

臨床試験という舞台設定があるため、あらゆる非日常な状況を作り出すことが正当化されているのが面白いところです。クローズドサークルであることも、他人が妙な行動を取っていることも、妙な事件が起こることも、全てそういう試験をしているから、という理由付けが可能であり、その中で何が本当に異常なのかを見分けていかないといけない、という所に面白さが出てきます。臨床試験というのは非常に便利で面白いですね。

脳波モニター

今作では、登場人物全員が脳波モニター付きの発信器を付けており、全員が手元の端末で互いの居場所と脳波の状態を確認できる、という設定があります。これがなかなかうまい道具立てだと感心しました。これも臨床試験の恩恵です。

ゲームシステム的には、各キャラの居場所を自然にプレイヤーに伝えられますのでシナリオ進行をスムーズにするサポート情報として機能します。一方、あくまでも発信器でしかないので、本当に本人がそこにいるのか分からず、伏線やブラフとして活用できますし、脳波モニターを付けておくことで見えない場所での異常事態を効果的に演出することも可能です。実際、作中での、扉の向こうで死にかけている、とか、死んだはずの人が居る、といったサスペンス的な演出は非常に効果的だったと思います。

ただ、贅沢を言えば、せっかく各時間の各人の位置が確認できるのですから、それをトリックの道具や推理の根拠として活用すれば、もっとミステリ的にも面白くなったのではないかというのが残念です。また、発信器を付けているはずも登録されているはずもない人が見えたり、マップが登録されている理由もセンサが置いてある理由もない場所が表示されたり、とゲーム内の理論武装の詰めが甘い感じがしたのもマイナス評価ですね。せっかくゲーム内でうまくシステムの理由付けをしたのであれば、そこは詭弁でも徹底しておくべきかと思います。

PS2移植について

PC版からPS2版への移植に関しては、ボイスを付けたことの他に、一般向けへのアレンジと、ミステリートへの連動シナリオの付加が行われています。ボイスに関しては、主人公も含めて違和感のないものだったのではないでしょうか。ただ、前述の通り、ボイスを付けたのなら、時間制限をもう少し緩めた方が良かったのではないかとは思います。

一方、一般向けへのアレンジですが……。キャンギャルはともかく、言葉責めというアレンジは正直いかがなものかと(汗)。PS2版はミステリート2への繋ぎという役割も担ってしまっていましたので、CEROでC区分以下に納める必要があったのだろうとは十分に想像できます。確かにできはしますが、それならそれでシナリオ内での当該シーンの機能をもっときちんと代替できるようなアレンジを考えるべきだったのではないかと……。今でもあのシーンの状況を想像するだけで思わず笑いがこみ上げてしまいます(^^;

ミステリートとの連動に関しては、初回プレイでは、すわ、これだけか!と色めき立ってしまいましたが、最終的には想像以上のボリュームで楽しませてもらいました。これならミステリートファンも納得ですね。ミステリート2も楽しみです。

追加シナリオはミステリートとの連動のためではありますが、サイファー自身のストーリーをまとめる機能もしっかり持っていてくれたことは嬉しいものでした。次の商売に繋がりつつもファンが喜ぶようなやり方をきちんと選んでくれることは純粋に嬉しいですね。Abel 全体でも最近商売っ気が目立ってはいますが、そんな中でも今後もこういう Win-Win のやり方を続けていただきたいものです。

シナリオの感想

俗に青ルートと赤ルートと呼ばれる2つのルートがあり、片方は基本SF無し、もう片方はいつもの菅野節のSF設定となっています。プレイ後の感想としては、それぞれミステリの菅野さん、SFの菅野さんらしいシナリオだったなぁ、という感じでしょうか。ただ、どちらにせよ完成度が低い感が否めません。

おそらく、完成度が低いと感じる原因の一つは、伏線が適切に回収されないこと、設定がうまく一本に繋がらないこと、ではないでしょうか。二つのシナリオはそれぞれ完全に独立しているにもかかわらず、中盤のシナリオで共有されてしまっている伏線がありますし、旧から真への手の込んだ移動の理由や、真琴の忠告など、そもそも全く投げっぱなしの伏線もあります。「絶対予測不可能」というのが今作のコピーでしたが、混乱させるためだけの脈絡のないブラフをちりばめれば、そりゃ予測は不可能になりますよね……。

また、特に SF 設定の方は後半のみで無理矢理話を回すため、とってつけた感の強いものになってしまっているのも残念なところです。少女の表情が変化するわけ、などの大きく取り上げられる謎も、他の設定とあまり有機的に繋がっておらず、謎を演出するためだけの設定となってしまっている感があります。簡単に言えば、全てが繋がった!という快感を得られない伏線が目立ってしまい、満足感を妨げている気がします。

全体的にあまり本腰を入れてシナリオの練りこみをしていない感じがするんですよね。もしくは、開発後半になって何らかの事情でシナリオがかなり変更になってしまい、キメラ状態になってしまったという感じが漂っています。ミステリートのような主力タイトルではないですので仕方ないのかもしれませんが、もう少し練り込めばもっと面白くなった予感がするだけに、残念です。

しかしながら、青ルートも赤ルートも、一番コアとなるどんでん返しに関しては、かなり良くできていると思いますので、菅野さんの手がけられているタイトルのテイストが好きな方には十分にオススメできるかと思います。また、細かい選択肢の雑テキストをつい全部読んでしまいたくなる楽しさも健在です。絶滅危惧種のコマンド選択式アドベンチャーを続けられる秘訣はここにあり、ですね。