WIN「マブラヴ ALTERNATIVE」age

マブラヴ オルタネイティヴ DVD-ROM

クリアしました。なんといいますか……。3年待ってて正解でした。デジタルノベルでできるストーリーテリングの最高峰と言っていいでしょう。よくこの尺であれだけの演出を詰め込んだものです。驚嘆に値します。

デジタルノベルは、アニメーションに比べて格段に長い尺を作ることができ、コミックスに比べて詳細な描写力に優れ、また、小説に比べてボイスやグラフィックスなどで格段に高い表現力を持っています。それらの利点を本当に出し尽くしたタイトルでした。

この作品は、武の成長物語だと理解していますが、それを充分に追体験させるために数十時間分のテキストが投入されています。これを実現できるのは小説かデジタルノベルだけです。しかし、小説ではイメージに訴えかける類の説得力はどうしても弱くなってしまいますが、今作ではイラストとサウンド・ボイスによる具体的な表現により、数十時間の間、表現の説得力が持続します。しかも、ただ漫然と紙芝居を見せられるのではなく、全編にわたって動きのある演出が盛り込まれているのがこの作品の特筆すべき特徴です。数十時間にわたってこれだけの表現をし続けられる媒体はデジタルノベルの他には知りません。

これなら制作がこれだけ伸びるわけです。プロジェクトマネージメントとしては問題外ですが、これだけのアウトプットが出てきてくれるならユーザとしては大歓迎ですね。というか、PC ゲームで二度とこれだけの(コストをかけた)作品が制作できるのかが疑問ですが……。

僕が理解した作品テーマは……なんかものすごくいろいろなものがドロドロと渦巻いている作品でしたので、うまくまとめられないのですが……あえて言うなら、「意志を形作るものは何か」でしょうか。『正しい』行動を起こすための立脚点、それを武が悩み続ける作品でした。サブテーマには「生きるということ」「失敗と成長」「平和を支えるものとは」など。人は大儀だけでは心を踏みとどまれない。身近な理由を持ち、それを踏み台にして大儀を目指すべし。とてもメッセージ性の強い作品でした。

日本が立憲君主制だったり、愛国心に関するサブストーリーが展開されたりと、表面だけなでるとアブナそうに見える部分もありましたが、人の持つ理由のひとつの姿としての言及であったと理解しています。そういったポリシー的な点ではバランス感覚の優れた内容だったといえるでしょう。

君が望む永遠と同様に、しつこくねちっこくアップダウンを繰り返す構成はライターのかたのクセなんでしょうね。若干辛いものがあるのですが、マブラヴでは主人公が一歩ずつ前に進んでいる実感があったので、辛いながらも引き込まれながらプレイすることができました。

ストーリーの状況説明を置いていかない程度に丁寧にしながらも、きちんとあからさまではない伏線から納得できるサプライズを演出しており、よろしかったのではないでしょうか。節々のターニングポイントをしっかり落差をつけて描いているのも良。

中盤の残虐シーンは、いきなり見せるのは賛否両論があるかとは思いますが……。主人公に感情移入させるには効果的な演出であったのは間違いないでしょう。いいのか悪いのかは僕には判断できません。

そもそも、時間ループものが僕の最も好きなジャンルでありますし、そこでこれだけの作品を作ってくれて本当に嬉しく思います。贅沢を言えば、時間ループものなら、もっとループして少しずつ未来を勝ち取っていく過程を見たかったかな、というところなのですが、この作品でそんな文句を言うのは筋違いというものでしょう。

何はともあれ、非凡な作品に触れることができ、幸せでした。制作者の皆さまに心からの感謝を。

ちなみに、ほぼ一本道ですので、アドベンチャーゲームとしては評価しておりません。あしからず(^^;

追記: 想定外と拒絶反応

巷での評判が芳しくないのはなぜだろう、と思いを馳せてみると、やはり受け手が望んでいないものを問答無用で押し付けると、激しい拒絶反応が出る、ということなんでしょうか。

予想外だったけれども受け取ってみたら良かった、というものはどんどん提供していかないといけないとは思いますが、予想外に望まないものを押し付けられた、となると、作品全体のイメージにケチが付くことになります。精一杯やったという作り手の自己満足だけをユーザに押し付けないように気をつけないといけませんね……。

ちなみに、僕はエピローグはファンサービス的な側面が強かったのかなぁ、なんて思ったりもしました。ちょっとラストからエピローグのあたりは冗長でしたね。世界が切り替わらずに終わっても良かったくらいです。まぁ、全体的な冗長な感じがひとつの味なのだと理解はしていますが。

しかし、改めてざっとプレイしなおしてみても、いいシナリオだと僕は思います。前後にプレイした I/O がかなり霞んでしまうほどでした(笑)

あと、僕がもっとも感動したのは、絵の枚数の多さとスクリプトによる画面演出の異常な多さなのですが、こういうところで感動してしまうのは普通じゃないんでしょうか……。まともなオーサリングツールもないんでしょうし、スクリプターの皆さまはとてもとてもたいへんだったはずなんですが〜。3年かかって当然・驚嘆した、という感想は主にここに対してのものです。この演出量はすごいと思うわけですよ。ほんとに。