DS「大人のDSミステリー いづみ事件ファイル」インターチャネル・ホロン

大人のDSミステリー いづみ事件ファイル

ホロンと聞くと某巨大学園のネットワークが脳裏をよぎって仕方ありませんが、それはそれとして、G-mode の携帯アプリとしてそこそこ有名なアドベンチャーゲームである「いづみ事件ファイル」のDS移植作品です。携帯アプリから3編、新規が3編の計6編の本編と、あとは論理パズルが20問という構成です。移植3編と新規のうちの2編は構成もボリュームも似たようなものですが、新規書き起こしの「ウェッジソール編」だけはまったく質の異なったゲームとなっています。

元が携帯アプリということもあり、聞き込みをして、推理する、ということに特化した内容ですね。ドラマは、犯行の動機などを説明するための最低限のものに抑えられており、推理するという行為をシンプルに楽しめるようになっています。トリックも奇抜なものというわけではなく、得た情報を分析する過程を楽しむゲームです。

DSのユーザ層を意識してか、アドベンチャーゲームが初めての人でも迷わないように、チュートリアルを丁寧に作ってある印象を得ました。他には、特筆することは……思いつきませんね。ウェッジソール編はチャレンジングではあるものの、どうにも不親切さが目立つ、ということくらいでしょうか。

ゲームシステムとシナリオ構造

ウェッジソール編以外の構成は、推理作家の鏡月先生逃げる→担当編集のいづみが場所を推理し追いかける→先生が事件に首を突っ込んでいる→いづみが代わりに聞き込みする→推理する→解決。この定型っぷりが、ある種の味を出していますね。聞き込みのパートは場所選択もありますが、フラグなどもほとんどなく、至ってシンプルなものです。分量も少なく、すぐに終わります。

ウェッジソール編は一転して、場所移動式のアドベンチャーゲームとなります。東京中の数十カ所を自由に移動でき、移動によってお金と時間が消費されます。12月31日の9:00から24時間が舞台です。移動していると連続イベントの起点にぶつかることがあり、あとはそれを芋づる式に追っていくことになります。連続イベントは10種類前後用意されているのでしょうか。最初から誘導してもらえるイベントが2つに、時間経過で強制的に発生するイベントが2つありますが、それ以外は偶然起点を見つけないことには始まりません。

また、ウェッジソール編の大きな特徴として、DSの2画面を利用して、上画面と下画面で別々の主人公が行動しているということが挙げられます。当然、2者では出会えるイベントも異なります。上下画面が同時刻で同じ場所になった場合は、上下画面での会話イベントが発生することもあります。

ウェッジソール編は上記のように、非常にチャレンジングな仕様になっていますが、残念ながらそれを十分に生かしきれていないという印象が残る出来でした。まず、移動可能場所が多すぎるために、イベント密度が低く、放り出されている感が強くなっているということ。適切な誘導があればそれを補うこともできるのですが、一部の導入イベントを除き、十分ではなかったように感じます。特に、導入イベントを素直に追っていくとそのままエンディングを迎えてしまうのが問題で、導入を意図的に無視しないと他のイベントに出会えないという構造は、非常に不親切です。別の方向性があるならば、それを促す印を埋めておく必要があったかと思います。

また、上下2画面に常に二人の主人公を表示させるという挑戦的なことを行ったわりには、それを絡めた効果的な演出などがほとんど無かったのも残念です。実はまだ50%くらいしかシナリオ達成度が行っていませんのでこれからあるのかもしれませんが、期待できる雰囲気ではありません。マルチサイトシステムを生み出した「EVE burst error」のようなシナリオ展開を期待すると大外れですので、要注意。

ただ、ウェッジソール編の不親切具合は、中古市場に流れることへの対策や、攻略本ビジネスとのリンクなどを考えると、一定の理解も得られます。論理パズルが収録されているのも、物語パートだけだとすぐに全てクリアされて、売られてしまうからだと思われますし。先日の CEDEC での「アドベンチャーゲームの復権」セッションで、G-mode の遠藤さんが、アドベンチャーゲームは歯ごたえがあるものにしようとするとどうしてもライトユーザを置いていってしまうので、攻略本ビジネスと切り離せなくなるのではないか、といった質問をしていた背景がようやく理解できた気がしました。