PS2「We Are*」KID

We Are*(限定版)

ゼノサーガをクリアした翌日に、ソフマップの店頭で見かけて衝動買いしてしまったアドベンチャーゲームです。KID の作品ということで大外れは無いだろうと思って買ったのですが……いや、下調べもせずにソフトの衝動買いなんてするものじゃないですね(^^;

小惑星の衝突によって火星が地球衛星軌道を回るようになった近未来、新興国による戦術核の投下により首都機能が移転した後の東京府で、ESP 能力に目覚めた少年と予知能力を持つ少女が過ごすひと夏の物語。と、これだけ聞くと SF で少し物悲しい感動の物語を想像してしまいますが、そういったものを期待しすぎると肩透かしを喰らいます。ここは、KID が付けている肩書きどおり「恋愛アドベンチャー」としてプレイするべきタイトルでした。

背景設定は気にせずに「恋愛アドベンチャー」として見ると、天との共同生活が徐々に進展していく部分の描写など、日常描写はとてもよく書けています。また、主人公も天も人付き合いが面倒で無駄に出かけるのも嫌いという、この手のゲームのプレイヤーに共感をもたれやすいキャラクターをとてもよく描写していると思います(笑)。夏という季節の気持ちよさも作品全体から感じました。青が気持ちいいですね。日常描写が豊富あって、シナリオの最後に何かひとつ事件が起こり、それをきっかけに結ばれる、という非常に典型的な恋愛アドベンチャーを求めている方にはよいタイトルではないでしょうか。ただ、まぁ、半数がこちらを振り回すタイプのヒロインなので、振り回されるのが好きじゃないときついかもしれませんが……。キャラクターのバランス、考えなかったんでしょうか。ちなみに、最近はツンデレなヒロインが流行りだということですが、今作ではヒロインはわりと積極的なことが多いのに対して、主人公がツンデレ、という新機軸です(笑)。

一方、SF 的な設定が生かされているか、という観点から見ると、完全に消化不良である印象を持ちました。以下、ネタばれ多数です。

導入を過ぎた段階では、自分の未来を知り絶望する予知能力者の少女を少年が救おうと孤軍奮闘する、という物語が展開されるのかと思いきや、それ以降まったく未来を変える努力もせず、エンディングの結ばれ方も主人公の努力とは何の関係もないところではっぴーなエンドになる、という不思議シナリオでした。これはライターが云々というより、プロットの段階でこうだったのでしょうね……。ESP 能力は事象を変革する能力だ、というような記述があるので、おそらく天の能力も予知ではなく、未来を『予知』した光景に捻じ曲げてしまう能力なのではないかと想像していましたので、じゃぁ、どうやってこの能力を活用したり、裏をかいたりするのだろう、とワクワクしながら進めていました。が、結局、予知能力もラストの事件のダシに使われただけで、しかも何も事情は解決していないのにハッピーエンドになってますし……。うーむ。

宇宙人設定も、いくつかのシナリオで道具としては使われましたが、代替不可能な設定でもなく、本当にフレーバーとして使われていただけのように感じました。菊菜にせよ、柚香にせよ、キャラクター設定から考えれば、もっともっとシナリオは考えられたはずです。というか、キャラクターの抱えた問題が、主人公やヒロインの努力によって解決する、という物語の構造がほとんど存在していないのがなんとも……。

これだけ背景設定と出来た物語に食い違いがあるのはあまりにも不自然です。企画だけあったものを別の人が作ったのか、もしくは難しいシナリオでは売れない(or 長すぎるシナリオは予算を食いつぶす)と判断したプロデューサかディレクターが路線を捻じ曲げたのか、そんなところではないかと想像しますが……。背景設定をしっかり生かせれば、もっと物語として面白いものが出来ていただろうにと思うと、なんとも残念です。

実は最初、天のシナリオをクリアして、そのあまりの設定の未消化ぶりに、全キャラをクリアしたらトゥルールートが現れるのではないか?と勘違いして全エンディングをコンプしてしまう、という失敗をしでかしていたりします(^^; 内心、この作品と背景設定を共有しているもっと違うタイトルが存在するのだ!という可能性に、まだ少しだけ期待しているのですが、果たしてそんなことがあるのかどうか。

なお、シナリオの分岐構造という観点から見ても、選択肢は好感度の上下にしか関係なく、共通シナリオから各ヒロインのシナリオに分岐して、そのまま好感度だけでエンディングの種類が決まるという、いまどきまだこんな選択肢のゲームがあったんだ、と思うくらい非常にありきたりのものです。公式ページに「特に煩わしいものは御座いません。」とわざわざ書くだけのことはあります(苦笑)。まぁ、そういうのを求めているターゲットに売りたい、ということなのでしょう。ただ、菊菜のシナリオだけは、アイスの部分で遊びの選択肢が入っていたりと、少しだけ遊びを感じる選択肢にはなっていましたね。というか、三択があったのは菊菜のシナリオだけでした……。

ちなみに、ゲームシステムのことだけ言えば、例によって KID の非常に高機能なものを使っています。I/O の感想 でも触れましたが、シーンごとに自動 Quick Save がされ、クリア後も任意の場所から遡ってプレイを再開できる最新のものです。今回もプログラマさんの時間が余ったのか、今度は JukeBox が妙に凝ったものになっていました……。ゲーム内の曲を好きなものをチョイスして、さらに好きなイベント CG を選択して、スライドショーさせながら音楽を聞くというモードが付いています。しかも、ボイス入りの曲に関しては、歌詞が歌にあわせて表示されるという念の入り様。商品価値という観点から見ればコストをかけるような場所ではないのですが、きっとよっぽど暇だったのですね(笑)。

何はともあれ、現状でもこういう感じのゲームはやっぱり発売されているのだ、ということを理解できただけでも、プレイした価値はあったと思うことにします。日常パートは楽しめましたしね。

そうそう、内容とは関係ありませんが、この手の恋愛シミュレーション系のタイトルって、ターゲットを考えると、いまどき Web での扱われ方を意識しないといけないと愚考いたします。それなのに、"We Are*" なんて、検索エンジン泣かせな名前をつけなくとも……。しかも、タイトルロゴを見ると "We/Are*" にしか見えなかったり。検索性の高い商標というのは、今後大事だと思うわけであります。