PS2「MISSINGPARTS side A/B」FOG

ミッシングパーツ sideB ナイスプライス!
ミッシングパーツ sideA ナイスプライス!

店頭で廉価版が販売されているのを見てふらっと買ってしまったアドベンチャーゲームです。プレイを始めてから「雨格子の館」と同じチームによるものだと気付きました。もとは DC で 2002 年に出ているんですね。こちらもSFやオカルトなパワーは出てこない、純粋なミステリ作品です。リアル現代ものは制約が強いので人間ドラマ以外は難しかったりしますが、その制約の中でストーリーの盛り上がりもあり、物語作品としてもけっこうよかったのではないでしょうか。

昨日コメントを書いた「雨格子の館」と比べてこちらの方が旧作ということになりますので、順番が逆ではありますが、プレイ順ということで気付いたことをメモしておきます。

本作の特徴

システム的に目新しいものはそれほどないのですが、全体的な作りの丁寧さが見て取れるタイトルですね。いくつか例を挙げてみます。

細やかに設定されたイベント

自由行動時に、街の中などで発生するイベントが非常に細やかに設定されています。移動するごとにゲーム内時間が進んでいくのですが、12コマや16コマ移動できる中の、1コマでだけ特定の場所で発生するイベント、というのが多数設定されているのには驚かされます。もちろん、ゲーム進行に深く関わるイベントはもう少しレンジが広く設定されていますが、それでも行く時間により何らかのバリエーションが付くことがしばしばです。さらには、その1コマしか発生しないイベントを見ていると別の1コマしか発生しないイベントの台詞が微妙に変わる、といった依存関係がごく普通に埋め込まれています。

ここまで細かくイベント管理をしているのはサクラ大戦くらいではないかと思ったりしますが、1コマでしか発生しないイベントの量を考えるとそれ以上ですよね。網羅プレイをしようと試みても心がくじけそうになる分量です。制作における費用対効果という観点から見ると、極めて悪いと言わざるを得ません。

しかし、自分の持論の一つとして、量も閾値を越えれば質に転化する、と常々考えていたりします。プレイヤーが網羅できなくなるほど分岐の量を積み上げれば、それはプレイヤーにとってはもはや総当たりで全域を把握可能な閉じた系ではなく、ただモニタの向こう側にあって毎回異なる反応を返す開いた系として知覚されるのではないか、というものです。本作の自由行動パートは、その領域に近づきつつあると言えるかもしれません。

ただ、確かに量はあるものの、それらがいま一歩有機的に繋がっていないため、プレイヤーにとってはばらばらと独立した事象が見えるだけで、世界としての厚みを出すことに貢献していないように感じるのが残念です。せっかくここまで情熱をかけて自由行動パートを作り込むのでしたら、例えば、全キャラクターについて、自由行動パート中にひたすら後を追い続けてそのキャラの日常的な素顔が観察できるようにするとか、自由行動パートでなんとなく様子をかいま見ることのできる本編と関係ないサブシナリオを複数本用意するとか、そういった形でメインの事件とは関係のないところにも世界があるのだ、という+αを多層的に見せていくことをもう少し意識してもよかったのではないでしょうか。ある程度、そういった方向を意識して作っているようには見えるのですが、イベントの膨大な物量に比べ、個別のテキストに対する気の配り方がいま一歩、という印象を受けてしまったのが残念でした。イメージで言えば、噛めば噛むほど味が出てくる、というより、噛み続けてもなかなか味は無くならないものの、ある程度で味が急激に薄まってしまう、というか。

また、ばらばら感が高い原因の一つとしては、重要なイベントがある場合はその周囲で誘導するようなイベントを起こす、といった形でのイベントの横の連携が少なかったこともあるかもしれません。人を追いかけるシーンなどでは、次はこっちでイベントがある、という誘導がある部分もありましたが、大多数のイベントは本当にたまたまその時間にそこに行かないと出会えないものです。そこには偶然以外の要素はほぼありません。膨大な数の選択肢を用意するのであれば、それに対して予想→的中という形でプレイヤーが関与できるようにしておかないと、何をしていいのか分からず呆然としてしまうだけで、せっかくの無数の選択肢が有効に機能しないのではないかと思います。もっとも、逆に、ただそこにある世界、というコンセプトで、犬が歩いて棒に当たるのをプレイヤーに味わわせたい、という方針もありえるのかもしれませんが。

それにしても、人ごとながら、これだけ複雑な条件付けがあると、デバッグをどう進めたのか心配になります(^^; 資料作成とテストプランの作成だけで大作業だったでしょうね。実際、シナリオライターがスクリプトも書けるのであれば、作り込みの段階でどんどん細かやかな分岐を付けていくこと自体は難しくはありません。しかし、デバッグ工程を考えるとなかなかディレクターはOKを出せないのが実情ではないでしょうか。そこをどう乗り越えたのかが気になるところです。やはり、最後は「愛」でしょうか……。デバッグをどうするか、というのも複雑なシナリオ構造を作成する上での大きな課題のひとつですね。ガンパレやシェンムーをいかにデバッグしたか、という講演があったら喜んで聞きに行きたいです(笑)

2Dビジュアル演出

「雨格子の館」と同様にキャラクターの立ち絵を拡縮して背景にはめる、という表現手法が採られています。こちらの方が前の作品となりますので、元祖、ということになるのでしょうか。同社の「久遠の絆」がどうだったかを覚えていないので、真の元祖がどれかは分からないのですが。

「雨格子の館」でも触れたとおり、素材の作成コストと表現効果のバランスが良く取れた手法だと思います。自然で効果的でした。スクリプタに対する負担が大きいという課題があるのは前述の通り。

インターネットからの情報収集

現代もののアドベンチャーゲームとして面白かったのは、主人公の情報収集の道具としてインターネットが積極的に使われていたことです。ニュースサイトや企業の公式ページ、果ては怪しい裏取引のBBSといった Web ベースの情報収集と、電子メールでの友人や情報提供者とのやりとりなど、現代の探偵として自然な形でインターネットを活用していたのは面白いですね。

特筆しておく点としては、「雨格子の館」では書庫が担っていた、莫大な情報のソース、としての役割を今作ではニュースサイトが担っていました。半年分ほどのニュースを週ごとに見ることが可能なのですが、その中には全く関係ない情報から伏線までが平等に埋まっています。

この、莫大な情報のソースからプレイヤーに情報をくみ上げさせる、という仕組みはもう少しうまく使えるんじゃないかとは感じましたが、そこに関する改善は「雨格子の館」できちんと為されていますので、試みとしてはよかったのでしょう。具体的に問題点を挙げると、ただ何月の第何週という中からプレイヤーに選択させても、得られる情報はほぼ予測不可能ですので、プレイヤーの中に予想→的中という流れを作ることができません。「雨格子の館」では、その改善策として、情報を取捨する判断基準として書名を用意し、書籍紹介の書籍(うーん、メタ)や、各キャラクターからの助言などを元に、必要な情報を予想できるようにしていました。

将来的には、実際に検索サイトでフリーワード入力での情報収集をさせる、というやり方ができると面白いですよね。もっとも、検索させるのは組み込みの全文検索DBを入れ込めばできても、ダミー用のコンテンツを大量に用意するのは非常に困難ですよね……。こういったやり方は、ARG (Alternate Reality Games) のほうが現実のインターネットを利用できる分、やりやすいわけですが、ARG とコンソールゲームの間をうまく取ったやり方を模索してみるのも悪くないかもしれません。ゲーム内のヒントは Google で検索すると出てくる、とか?……うーん、これはいまいちありきたり。

シェアードワールド

膨大なダミー情報があることの利点の一つは、そこで作品世界の味付けができることです。「雨格子の館」と両方をプレイして初めて気付いたのですが、両者の莫大な情報の中に「あかつきの白いバラ」という架空の作品名だったり、「不思議ビバレーツ」という社名だったり、あるいは人名だったりといったさりげないワードで背景世界をシェアしているんですよね。

別作品で背景世界を共有するのをシェアードワールドと呼んだりしますが、続編でもないのに登場人物などをダイレクトに共有してしまうことにはリスクがあります。例えば、独立したタイトルだと思って買ったユーザさんに、設定を知っている人にしか分からないような会話を見せてしまうと、仲間はずれにされているような居心地の悪い思いをさせることになります。

その点、こういったちょっとしたワードでのお遊び程度の共有であれば、本当に分かる人だけアピールできますし、逆にこのくらいさりげないほうが、他の作品もプレイしている自分だけが気付いている!というファン心を刺激したりして効果的な面もあります。こうすれば、ブランド全体に対する愛着を持ってもらいやすくもなりますし、ファンもメーカーも双方が嬉しい、うまい方法ですよね。シリーズ戦略とは少し違って、毎回新規タイトルで挑戦してもユーザが付いてきてくれる、というのも利点でしょう。

問題は、こういったシェアードワールド設定に喜びを感じるユーザ層は、実は物語好きな一部の層に限られているのではないか、という疑念があるところですが……。まぁ、アドベンチャーゲーム好きであれば、そういうった属性を持っていることは多いでしょうから、今作においてはターゲットにマッチした施策だと思われます。

もっとも、純粋に、作り手が自分たちの作品世界を愛しているだけ、という理由の方が大きいとは思いますけどね。もっと、こういった作り手の愛を感じる作品に出会いたいものです。

シナリオ構造

side A/side Bで各3話、計6話で区切られており、それぞれの side 内では各話をクリアすると次の話を始められるようになっています。基本的には一本道ですが、各話の最後は行動内容や推理、犯人の説得の成否などによりかなり複雑に分岐します。どのくらいよいエンディングを迎えられたかに関しては、最後に探偵度評価が Rank A 〜 D まで出ることでフィードバックが与えられます。

最終話ではそれまでの全ての事件が絡んでくるのですが、ここに各話のエンディング状況が反映されるかは試せていないため不明です。一部、途中の話での登場人物が死んでしまっているともらえないヒントが最終話にありますので、影響するのであればかなりのロングレンジの影響となりますが……。

自由行動パートでは、場所を移動すると、ゲーム内時間に応じたイベントが発生する、というのが基本システムです。ゲーム内時間は場所移動などで増加していきます。選択するのは基本的に場所だけで、コマンドが出てくるわけではありません。シナリオ構造として特殊な形はしておらず、むしろその枠組みの中での作り込みの深さが特色となっています。

自由行動パートは一定時間で完了しますが、その間にフラグを立て損ねた場合でも即座にゲームオーバーになることは少なく、何度かの自由行動パートに渡って挽回のチャンスが設定されています。それでもフラグを立て損ねた場合は途中でゲームオーバーになることもありますが、シナリオ自体は普通に進展していって最後のエンディング分岐に影響することもしばしばです。

単なるエンディング分岐以外に、好感度的なパラメータによる演出の変化なども随所に仕掛けられており、そういった点では通常のアドベンチャーゲームに比べて非常に複雑なシナリオスクリプトをしています。

全体的な感想

前情報も知らない状態で、それほど期待せずにプレイしていたのですが、かなり楽しむことができました。3話や5話を始めとしたストーリーの盛り上がりなどは良かったのではないでしょうか。推理ものとしては、フラグを立てて主人公の推理を聞く、というパターンから脱し切れていない部分があるものの、犯人を想像しながら各人物との会話を楽しむのもよかったと思います。できれば、最後の黒幕に関してはもう少し丁寧に内面の展開をしてもらいたかった、というのがストーリー的な心残りでしょうか。しかし、十分に楽しませてもらいました。

また、「雨格子の館」とも共通するところですが、最後の犯人との会話による心理的な駆け引きに重点を置いているのも特徴ですね。事件の謎を解くだけでなく、犯人の心の問題までも解決してこその探偵である、というポリシーが見えるような気がします。Wish Room の感想でも書きましたが、相手の心理状態を推し量りつつ会話を進めていくというのも、アドベンチャーゲームの楽しみ方の一つとして面白いと改めて感じました。

ただ、最後のゲーム的な盛り上げ方として、爆弾解除のシーンがあるのですが、これが雨格子の楔とほとんど同じノリだったのには少々食傷してしまいました。アドベンチャーゲームの枠組みの中で少し目先を変えて手に汗を握る緊迫感を出すにはいいアイデアだとは思うのですが、毎回やるものでもない気がします……。

キャラクター描写などについては、他の濃いキャラゲーに慣れていると薄く感じてしまいますが、本格推理ものとして適切なトーンだったのではないかと思います。若干、女性向けの雰囲気もありますね。主人公の周りは男性キャラクターが囲みますし、その間の心の交流などは丁寧に描写されているように思います。ちなみに、「雨格子の館」では主人公と伊織の交流としてもっと強くフィーチャーされますね。ここら辺は、元からの作風とファン層の双方からの要請なのでしょう。ミステリアドベンチャーのファン層と女性のユーザ層がどのくらい重なるのかは興味のあるところではあるのですが、FOG はオンリーワンな市場を持っているブランドであるような気はします。

しかし、スタッフロールを見て驚くのですが、企画と音楽が同じ方、というのも珍しいですね。一般的な作り方とは違う、音楽からシーンをイメージするような制作工程もできそうです。5話の屋上のシーンは、もしかしたらそんな風に作られたのかもしれませんね。

名作として心に刻んでいる方が大勢いることが頷ける、秀作でした。

追記: 「やり込めるアドベンチャーゲーム」というジャンル

改めてネット上の攻略サイトを読んでみたのですが、攻略情報を読まない限りはまず気付くことのできない激レア条件のイベントが盛りだくさんでした……。作中で特定のメールマガジンを取ることでヒントはもらえるものの、そのヒントも謎かけに満ちた物。CG一覧を埋めるには想像以上のやり込みプレイが必要です。

そういったやり込みプレイが前提なのだとすれば、あの自由行動のイベント量も頷けるのですが、果たして何割のプレイヤーがそこまでやりこんだのでしょうか……。やり込んだからといって、ゲーム本編に関わる新事実が分かるわけでもないので、モチベーション的にも微妙です。本当に好きになったファン用、ということでしょうね。力の入れ方としてアンバランスな印象は拭えませんが、作り手がそれで満足しているなら、それはそれでありなのかもしれません。

ただ、せっかくここまで力を入れたのであれば、もう少しユーザに対してやり込みプレイへの分かりやすい動機付けを提供した方がよかったかもしれませんね。現状ですと、CG一覧が埋まらない、ということのみがやり込みの動機となります。これだけでも指標とはなり得ますが、全体的なやり込み度を簡単に可視化する指標をさらに別に加えることも考えてよかったかもしれません。「かまいたちの夜」のしおりの色や、KIDのタイトルにおけるシナリオ読破率の表示などがそれに当たりますね。もしくは、CG一覧とはさらに別の「情報リスト」みたいなものをレアイベントを見ることで埋めていく、という世界設定を探っていくような形での仕様があったほうがよかったかもしれません。

ああ、なるほど!「雨格子の館」において、人物プロフィールの空欄を埋める、という要素はここに対する改善作だったのですね。各人のプロフィールには本名+5個の情報のスロットが用意されていますが、キーワードによる聞き込みなどでうまく情報を引き出さないと????が入ったままになってしまいます。登場人物の背景情報でまだ知らないものがある、というのは確かにプレイヤーにとって、やり込むための大きなモチベーションとなり得ます。

やはりこういった点でも「雨格子の館」は順当進化タイトルと言えるのかもしれませんね。